2022年度の信州大学教育学部附属長野中学校(以下、附属中)の選抜試験に合格した碧さんには、調香師になりたいという大きな夢があります。小5の4月にまつがく柳町校に入塾した碧さんと、碧さんをサポートしたお母様、
そして校舎長の松本伸司先生の3人で、中学受験を振り返ります。
碧さんのタイムライン
小学校 |
長野市立城山小学校 |
---|---|
将来の夢 |
香水を調合する「調香師」 |
まつがく入塾 |
小5の4月に入塾 |
勉強のペース |
1回120分×週2回通う |
得意 |
作文、算数 |
不得意 |
理科、社会、面接 |
中学に入学したら |
新しい友達を作りたい |
東京の進学塾の春期講習も体験
- 松本
碧さんは小5の4月に入塾して、四谷大塚のお茶の水校舎(東京都千代田区にある進学塾)でも講習を受けていたよね。
- 碧
はい。6年生にあがる前の春休みに、春期講習を受けに行きました。一人で長野駅から東京駅を経由して御茶ノ水駅まで行くのは勇気がいりました。
- 松本
チャレンジ精神があるよね。自分を試してみたいという気持ちが強い。
- 碧
勉強の内容はすごく難しかったです。レベルでクラスが分かれていました。
- 松本
中学受験を決めたのもその頃でしたっけ?
- 碧
はい。小5の終わりごろには決めていました。
- お母様
附属中に決めたのは夏ごろだったかな。附属中の見学会が7月で、その前には本人が決めていました。
- 松本
例年は6月にある見学会がコロナで延期されたんですよね。見学会の前から附属中に絞っていたけど、見学会でより気持ちが固まった感じだったね。碧さんの夢はユニークで、調香師なんだよね。
- 碧
はい。家に、いろんな仕事を紹介している本があって、それで知って面白そうだなと思ったのがきっかけです。
- お母様
お父さんと、フランスの調香師の映画も観ていたよね。
- 碧
『パリの調香師』という映画です。あの映画も面白かった。
- お母様
碧が、香りに興味があることを知っている友人が多いので、香水をいただくことも多いです。碧は好きな香りをかいで、自分の気持ちを上げたり、不安を和らげたりしていました。
- 松本
調香師になるには、小・中・高・大と進学して香水メーカーに就職というルートなので、基本的には大学受験を目指すことになりますね。香水の本場で修業するなら、フランスやイタリアに行くことも視野に入ってきます。大学は慶應義塾大学に行きたいんだよね。
- 碧
はい。レベルが高くて、父が卒業生なので、憧れがあります。
「作文」は得意なのに「国語」は苦手な理由
- 松本
碧さん自身でこれが苦手と感じていた勉強はあった?
- 碧
暗記は思っていたより得意だと思いましたが、それでも理科と社会は苦手だったかな。応用問題はとても苦手でした。
- 松本
小6の5~6月は、理科と社会は本当に不安でした。平均点以下だったので。でも、問題集3冊をそれぞれ3周やりきって力をつけました。他の生徒にも、原則はそれくらいやってもらうようにしていますが、やりきれるかどうかは人によります。だから、やりきれた碧さんはすごいと思います。そのあと一気に成績が上がって、10月頃には完成していたかな。受験に間に合うかどうか心配でしたが、追い込む力にも目をみはりました。
- 碧
がんばりました。
- 松本
算数は得意だよね。atama+を使って小5で中学の数学の勉強をはじめていたくらいだから。
- 碧
算数は答えがひとつしかないので解きやすいです。計算問題も好きです。
- 松本
碧さんは、答えがひとつではっきりしているのが好きですね。作文も得意でした。視点が独特で、「こういう切り口でくるか」というところに持って行く。書いたものを読んで、笑ってしまう時もあって、本当に面白かったです。
- 碧
?
- 松本
自分ではそうは思っていなかった?
- 碧
ぜんぜん自覚していませんでした。
- 松本
作文については最初から完成していて、むしろお手本にしたいくらいでした。ときどき独特すぎて模範解答から大幅にずれることがあって、そこは少し修正していましたが。碧さんのような独特の視点が受験でどう見られるかは、正直分かりません。ただ今の中学校は主体性を重んずる傾向があるので、個性的であることはわりあい好意的に見られるのではないかと想像します。碧さんは、作文は得意だけど、国語、特に記述問題は苦手だったね。
- お母様
私も不思議に思っていました。作文はあんなに得意なのに、なぜ国語が苦手なんだろうって。
- 松本
碧さんはいい意味で個性が確立していて、ものの見方もしっかりしています。ただ、国語の問題というのは、他の人が書いた文章をもとに出題されます。「作者の考え」を想像しないと解けません。「作者の言いたいことを書け」と言っているのに、「自分はそう思わない」ではバツになるじゃないですか。自分の考えは一旦脇に置いて問題に取り組まないといけないんだけど、小中学生にはまだ難しい。感情移入や、メタ視点で見ることが難しいんですね。一方、作文は自分の意見を書けばいい。そこはむしろ理系的と言えます。
- お母様
そういうことなんですね。謎が解けました!碧は作文を書くのが早いんですよ。作文もまつがくからの課題で毎週出されていて、最初はちょっと戸惑っていたようなんですが、上達が早くて何回か練習したら、300字の作文を10分以内に書き上げられるようになっていました。作文は松本先生に提出する前に私も見ていたんですけど、文章力や表現方法もどんどん上達しているのが分かりました。
- 松本
本を読むのは好き?
- 碧
好きじゃないです。
- お母様
自分で読むのは好まないんですが、幼い頃から私が毎日寝る前に本を読んで聞かせていたんです。それが本当に好きで。毎日、生まれた時から最近まで読み聞かせをしていました。だから、自分では読むことはしなくても、ずっと聞いてきた蓄積はあるのかもしれません。それが、作文を書くのをきっかけに、自分の表現として生きてきたのかなと思います。
面接練習が親子のコミュニケーションに
- 松本
受験勉強をしている間、プレッシャーやストレスはあった?
- 碧
不安でした。
- お母様
分かりやすく「不安なんだ」というかたちでは言ってきませんでしたが、とてもナーバスになっているのは分かりました。受験は人生で初めてのことで、イメージがなかなか湧かないことも原因かなと。試験の内容は決まっていて、合格のためにこなさなければならない課題があって、試験日というゴールも決まっている。だけど、イメージがうまく湧かないから漠然とした不安がなかなか拭えないのかなというのは感じていました。少しでも慣れるように、家でも面接の練習を毎日のようにやっていました。
- 碧
母が面接の練習に付き合ってくれて、とても心強かったです。
- 松本
あるところから急に面接がうまくなったんですよ。それまでは、声が小さかったり、途中で止まってしまったり、質問からずれる答えが返ってきたりしていました。小学生の入試は、みんなとてもナーバスになります。そこでおうちの方が一緒にナーバスになってしまうと不安が増幅されてしまいますが、お母さんはどっしりしていてくださった。面接練習の中で親子の会話もあったでしょうし、そこでいろんな不安が落ち着いたんじゃないかと思います。すごくありがたかったです。
- お母様
面接の練習を名目に、「尊敬する人は誰ですか?」と聞いたりしていました(笑)。面接は、自分の思っていることを具体的に表現するのが難しいところです。聞かれた時にすぐに表現できるように面接の練習をしていましたが、その練習自体が会話のキャッチボールになっていました。碧が思っていることを聞けるのは楽しかったし、碧自身も話す中で「ああ、自分はこう思っていたんだ」という気づきもあったのかなと。あとは、練習する中で「こんな言い方でいいのかな?」と疑問点が出てきます。それで、次に松本先生と面接の練習をする時に質問したいことを、あらかじめリストアップできたのもよかったです。
- 碧
志望動機も、面接で深めることができました。
- お母様
碧の夢である調香師も、香りを言葉で表現する力は必要ですから、そこから面接につなげることもしていました。「自分を表現する面接の練習を、香りを表現する練習と思ってやろう」と。
- 碧
松本先生は、面接練習の最後に、いろいろ面白いことを教えてくれていました。
- お母様
松本先生は何でも知っていらっしゃると、いつも感動して帰ってきていました。「こんなことを教えてくれたんだよ」って。碧の世界が自然に広がったんじゃないかと思います。あと、碧が体調を崩した時は、ZOOMでずっと面接練習をやってくださって。とても心強かったよね。
- 松本
それはよかったです。そういえば、お母さんは附属中の卒業生ですよね。
- お母様
そうなんですが、私が入学した時は面接も作文もなかったので、受験勉強という意味ではあまり参考にはならないと思っていました。ただ、附属中の行事や、学校として大切にしていることは伝えることができました。見学会の時も、実際に学校の雰囲気を肌で感じながら、「あそこでこういうことをしていたんだよ」とか、「爽やかで品位を持つことをとても大切にしている学校だよ」というようなことを伝えられたのはよかったです。
- 松本
それは卒業生でないと伝えられないことですよね。
- お母様
碧の中で、学校へのイメージや希望がすごくふくらんだタイミングになったと感じました。
- 松本
他にご家庭で心掛けていたことはありますか?
- お母様
勉強に関しては、本人が松本先生から出された課題をがんばってこなしていたので、私が特別口を出すことはありませんでした。先程もお話した通り、作文を見たり面接の練習をしたり。附属中に入りたいという動機と将来の夢をどうつなげるか、碧の気持ちをどう表現するかといったことを話し合うのに重きを置いていました。
- 松本
不安定な時期に色々な話を聞いてくれて、なおかつ安心できる相手がいるというのは、とても大切です。碧さんが書いた作文の中に、「母には何でもしゃべれるし、聞いてくれる」という一節があったんですよ。それを読んで、碧さんは精神的には大丈夫だろうと確信しました。そして、精神的に支えてくれる環境があるなら、こちらとしては勉強面でもう少し圧をかけてもおそらく耐えられるだろうと考えていました。みんなそうなんですよ。もちろん心が折れるほどの圧は厳禁ですが、受験勉強はぎりぎり耐えられるところまでがんばらなければならない状況が多いので。
碧さんの場合は、社会と理科の暗記系は、算数ほどには得意ではない。それは、好き嫌いがけっこうあって、好きなものはすんなり覚えるけど、嫌いなものは受けつけないところがあったからです。小6の1学期の頃は、嫌いなものを覚えることにかなり抵抗していましたね。僕に抵抗しているわけじゃなくて、本人の中での葛藤ですね。嫌だなと思っているのが露骨に出ているというか。小学生はみんなそうで、授業をやっているとよく分かるんですけど、好きなものに対する目の輝きと、嫌なものに対する拒否感はぜんぜん違います。碧さんもそこが課題でしたが、本当によくできるようになりました。がんばらせることができたのも、ご家庭が精神的に支える場になっていたからで、そこはとても助かりました。
受験を通して本物の自信がついた
- 松本
受験当日はどうでしたか?
- 碧
テストは少し不安があったけど、意外とあんまり緊張しませんでした。
- お母様
試験の前までは本人も不安を感じていたのでどうなるか心配な面もあったんですが、当日、受付を済ませて、ひとりで校舎の中に入っていく後姿を見ていたら、わりと落ち着いた足取りだったので、安心しました。むしろ、こちらのほうが緊張していたかもしれません。
- 碧
受験の2週間くらい前にシミュレーションしたよね。
- お母様
そうだね。受験当日と同じ服を着て、同じ曜日、同じ時間に附属中まで行ってみたんです。昇降口まで行って帰ってくるだけなんですけど。碧の不安を和らげる方法として、学校の先生が提案してくださいました。同じ状況を体験したこともあって、当日は落ち着いていたのかもしれません。
- 松本
不安とどう付き合うかが課題だったんですね。
- お母様
初めてのことに取り組む不安と、絶対に入りたいという強い希望がないまぜになって、「自分に本当にできるのかな」という気持ちだったと思います。碧は慎重派なので、石橋を叩きすぎて渡れなくなってしまう感じもありました。当日のテストの手ごたえはどうだった?
- 碧
「できた」という感じはあったかな。
- 松本
合格発表の時はどうだった?
- 碧
緊張していました。附属中は郵送で結果が送られてくるので。
- お母様
受験の時に、あらかじめ自分で宛名を書いた封筒を提出しておくんですよね。合格でも不合格でも送られてきます。
- 松本
合格と不合格では、封筒の厚さが違うんですよね。
- お母様
合格していると、入学に向けての資料が入っているので厚くなります。
- 碧
ポストに入っていた封筒を、ひと息ついてすぐ開けました。合格していて、よかったなって。
- お母様
うれしかったね。
- 碧
不安だったけど、受験をちゃんと受けることができて、乗り越えられたからよかったです。
- お母様
自信につながったね。あとは、作文の練習を通して表現力がとても豊かになっていくのを目の当たりにして、練習ってすごいなと感じました。今、卒業文集を書いている時期ですが、その文章もぜんぜん違うんです。今のいちばん大きな夢を自分の力で勝ち取った、その自信と達成感はすごく大きくて、強くなったなと思います。目の輝きも違って、キラキラしてる!
- 松本
お母さんがおっしゃる通り、自信がついたというのは大きいと思います。小学生はすごく自信を持っている子が多いけど、まだ外部から本格的に評価されたことはないので、そのギャップが大きいんですね。碧さんも自信はあるけれど、本当に受かるかどうか分からないし、チャレンジして失敗したらどうしようという不安はあったと思います。それが、合格というかたちで対外的に評価されて、本物の自信になったと思います。
- 碧
中学に入ったら、新しい友だちをつくるのが楽しみです。
- 松本
合格、本当におめでとう!
(取材・文/くりもときょうこ)