卒業生x校舎長対談 卒業生x校舎長対談

小学校5年生の夏休みにまつがくに入塾した斎藤愛香さんは、柳町教室校舎長の松本伸司先生が「天才型」と太鼓判を押す、勉強がよくできるタイプです。

中学受験、高校受験ともにさぞ楽勝だったのではと思いきや、特に高校受験は不安からプレッシャーを強く感じていたそうです。理解が早くて、コツコツ努力もできる。一見“鬼に金棒”の斎藤さんは、どのようにプレッシャーをはねのけ、力を発揮できたのか。松本先生とともに、斎藤さんの中学受験期と高校受験期をたどって、その秘密を解き明かします。

斎藤さんのタイムライン

小5・8月

まつがく柳町教室に入塾

小6・12月

信州大学附属中学校を受験して合格。合格後、すぐに中学の勉強をはじめる

中1

最初のテストは500点満点中455点と好成績。その後、卒業まで400点前後(平均+50位)以上をキープ

中2・3月

中学で学ぶ内容の予習を終えて、中3から受験勉強に加えて高校の予習も行う

中3・5月

中3最初のテストで学年9位に。まつがく内のテストでは全体1位を何度もとる

中3夏

高校の予習は一旦休んで、受験勉強に専念

中3後半

受験に対する不安が大きくなり、体調を崩しがちに。成績も下がり気味

中3・1月

成績が回復、2月後半の中学最後の学校テストで完全復活し、ふっきれる

高校受験

長野高校を受験して合格。高校の予習へ進む

1. 将来の夢を一年かけて話し合う

人の役に立ちたい

松本

生徒さんとは、原則月1回面談をします。斎藤さんとは、中1から中2にかけて、将来の夢をじっくり話し合いました。海外に行きたい、弁護士になりたいと言っていたのは覚えていますか?

斎藤

覚えています。学校の総合学習の中で、自分の調べたい課題を調べたこともきっかけになりました。

松本

SDGsに関連した水の問題でした。その話を面談の時に聞いて、それこそ1年近く将来何をやりたいか話をしましたよね。

斎藤

日本はいつもきれいな水を飲めますが、海外では汚れた水を飲むしかないところもあり、それが原因で感染症が流行ってしまう。さらに、感染症の患者さんの排せつ物が川に流れこんで感染症が広がるという負のループがあって、深刻な問題だなと思いました。あと、自分の生活とあまりに違うので、自分は恵まれていると気づかされました。

松本

水でずいぶん話が広がりました。アフガニスタンで用水路の整備をして65万人の命を救った中村哲さんのこと、海水を真水にする機械のこと、青年海外協力隊のこと……。水についてどの大学が何をやっているかも調べて、とにかく「じゃあどうする?」という話をいろいろしました。とはいえ、こちらが導くというよりは、生徒さんひとりひとりが自分で決めることなので、私は調べて提案するだけですが。斎藤さんはいろんなことに興味のアンテナが向くから、水に限らずいろんな話をしましたよね。

斎藤

最終的には政治を動かさないとダメだよね、という話も出ました。

松本

そうそう。「じゃあ東大行くか」と言ったら、斎藤さんは「東大は行きたくない」って(笑)。だいぶ説得しましたけど、拒否されました。

斎藤

そこまでの頭脳は持ち合わせていないので。あと、そんなにがんばりたくないです(笑)。

松本

がんばれば可能性はありますよ。ただ今はまた、方向性が違ってきたよね。

斎藤

世界に視点を置いているのは変わらないのですが、教育を広めることもいいかなと思っています。

松本

獣医になりたいという話もしたね。

斎藤

動物が好きなので。

松本

いろんな可能性を模索しているところですね。興味がいっぱいあるのはいいことだと思いますよ。斎藤さんは、誰かの役に立つことをやりたいという点は一貫しています。小5の時からそうでしたから。

斎藤

そうですね。自分が役に立つことがあればしたいと、ニュースを見ていて思います。

結果よりプロセスを見てくれる母

松本

ご家族やお友だちと将来の話はしていましたか?

斎藤

母とたまに話します。母は、話を聞いてくれるので。

松本

非常に優しい感じのお母さんですよね。

斎藤

いや、そんなことないです(小声)。厳しいところは厳しいですよ。でも、なんでも話せる感じです。

松本

否定はしないよね。ダメなものはダメと仰るでしょうけど、子どもの夢を否定する方ではない。

いろんなタイプの親御さんがいらっしゃいます。自由にさせるというのは、責任から逃げる部分もあるじゃないですか。「子どもに任せています」と投げてしまっている人もいれば、逆にこうなってほしいと強く思っている方もいます。あとは、「家から出てほしい」もしくは「近くにいてほしい」という、子どもの将来の居場所の希望は親御さんからよく聞きます。

斎藤

母はあまり成績について言うタイプではなくて、テストの結果がよくても、あまりよくなくても「がんばったね」と言ってくれます。結果よりプロセスを見くれる感じです。成績に干渉されたことがなかったのは、今思うと、良かったのかもしれません。

2. 中学受験の動機は「合唱」

合唱がやりたくて

松本

斎藤さんは、小5の夏休みに入塾しました。小学校はどこでしたっけ?

斎藤

古牧小学校です。

松本

最初から附属中受験を考えていましたね。お友だちは清泉中希望でした。なぜ附属中に行きたいと思ったんですか?

斎藤

私は合唱をやっています。附属中は合唱がすごく盛んなので、それで行きたいなと思ったのがきっかけです。

松本

中学受験の時は、勉強にあまり困っていない雰囲気でした。

斎藤

受験自体の重みをあまり感じていませんでした。不合格でも地区の公立中学校に行けるので、気楽な感じでしたね。

松本

むしろ今年の高校入試のほうがつらかったよね。

斎藤

そうですね。

松本

中学受験は12月なので、合格後すぐに中学の予習をはじめました。これは例年、みんな同じですね。信州大学附属校は中学までしかないので、親御さんも本人も「すぐ3年後に次(高校入試)がある」と意識しています。

自主性を重んじる附属中の学習

松本

中学校では、平均プラス50位くらいで成績は常によかったです。週1でやっていたまつがくの受験対策トレーニングテストでも、まつがく内で全体1位を何度もとっていました。学校では、授業以外にどういう勉強をしていましたか?

斎藤

宿題は各教科をノート1ページ分やることになっていました。内容は指定されず、自分がしたい勉強を自由にできます。やることが決められていない分、自分に足りていないところを重点的に勉強できたのはよかったです。

松本

今ちょっと変わりましたけど、長野県内の中学校の宿題は、全部その「1ページノート」という形式でした。ゆとり教育になった頃からで、生徒の自主性を重んじるという趣旨でした。英・数は何でもいいから1ページやって、国語は漢字練習。加えて、生活の日記を書く。とにかくそれを毎日出すようになっていました。それで、保護者の方から「1ページノートに何を書いていいか分からないから、塾で指導してください」と、よく言われていたんですよ。

斎藤

附属中の1ページノートは、みんなやっていることが違っていました。

松本

そのへんは自主性に任せるという感じですね。附属中らしい。あと、附属中の場合は、教育実習の学生が多く来るという事情も関係しているんじゃないでしょうか。1年のうち4か月くらいは実習生の授業を受けることになります。1年間ずっと担任が見ているというのと違うので、自分でやらないともたない。自学自習できる自主性は、附属中に行く場合は必要ですよね。逆に、それができる生徒を集めているということはあると思います。

まつがくでは英語と数学を予習

松本

まつがくでは、高校受験期に入るまではずっと週1で来ていました。

斎藤

高校受験に入る前は、数学と英語の予習が基本でした。

松本

当時はまだアタマプラス導入前で、昔からのテキストを使っていました。斎藤さんは途中からアタマプラスに変わりましたが、どうでしたか?

斎藤

予習する上で内容を端的に把握できる点ではよかったです。演習問題の量が少なかったり、英語の長文問題に書き込みができなかったりしたのが、使いにくく感じました。

松本

なるほど。今は、問題への書き込みはできるようになったんですが、書き込んだものを残すことはまだできないんですよね。アタマプラスは改善のサイクルがとても速いので、より使いやすくなっていくと思います。

3. 緊張と向き合った高校受験

長野高校なんて自分には無理

松本

長野高校の名前は、入塾した時から出ていましたね。

斎藤

長野高校のことは、小学校高学年くらいから意識しはじめて、中学に入った時には行きたいと思っていました。将来、大学進学のための勉強ができる環境も大事だと思っていて、長野高校は勉強をがんばれる高校だと思ったので。

松本

中2でアタマプラスの英・数の中学の範囲を終えて、中3からは高校の勉強もはじめていました。私個人としては、そのまま高校の勉強にシフトチェンジしてもらいたかったんですよ。斎藤さんならできるだろうと思っていたので。でも、斎藤さんから受験が不安だと言われて、1学期の終わりから2学期はまた中学の勉強に戻して、受験勉強に入りました。とても心配性だなと感じました。

斎藤

そうですね。プレッシャーが強かったです。

松本

中3、5月の学校テストは、学年9位で絶好調だったのに。斎藤さんとしては、まぐれという感じだったのでしょうか。

斎藤

その時は、がんばった結果だと思います。春休みに英語を集中的にやったので。でも、まぐれだろうなという思いもありました。

松本

長野高校には行けないから別の高校にすると言っていたこともありました。長野高校は自分にはおそれ多いと。

上位校ならではの受験のプレッシャー

松本

私は、長野高校には絶対に受かると思っていました。学校の先生も言っていたよね。だけど、斎藤さんはその言葉をなかなか信用してくれなくて……。

斎藤

そうなんです。同じ中学で同じ高校を受ける人たちとどうしても比べてしまって……。すごく頭のいい人たちばかりいたので、自分は及ばないなと。

松本

公立中に行っていれば、そういう考えにはならなかったと思うんです。附属中は100人くらい長野高校に行くので、上には上がいることを見せつけられる。上位校ならではの現象ですね。上位校にいるからえらいと勘違いして自分の学力を過大評価するか、上には上がいるから自分はダメと過小評価するか、だいたいどちらかに分かれます。受験期の最後のほう、斎藤さんは病気になるんじゃないかと心配していました。実際、中3の後半から体調を崩しがちでしたよね。

斎藤

そうですね。

松本

受験勉強では過去問や難しい問題集をやっていました。

斎藤

完璧にできたときはいいんですが、間違えてしまった時、特に長野県の高校入試の過去問で間違えてしまうと、不安になってそこをずっとやっていました。

松本

斎藤さん自身は不安を抱えてつらかったと思いますが、教室の雰囲気をつくってくれていたんですよ。小学生の頃から真面目に何時間も勉強できた子が、中3で受験生になって一生懸命勉強しているわけですから、教室の空気はおのずと引き締まります。教室の斎藤さんがいるあたりは、安心して任せられるという感じでした。

合唱と友人が心の支えに

松本

受験に対する不安な気持ちは、どういう風に解消していたんですか?

斎藤

学校では毎日、朝と帰りの学活で合唱の時間があったんです。合唱がすごく好きだったので、それがいい気分転換になっていました。

松本

中学で、クラスで1日2回合唱するのは珍しい。合唱に力を入れている学校だけありますね。クラスで歌うということは、部活を引退したあとも合唱ができていたということですか?

斎藤

そうです。

松本

支えになったんですね。

斎藤

はい。

松本

受験期間、友だちとはどういう話をしていましたか。

斎藤

友だちとはよく話をしていました。分からない範囲を教え合ったり、問題を解き合ったり。模試の話もしていました。

松本

そういえば、どこの塾がいいかとか話していたと言っていましたね。どこの塾がいいという話になったの?

斎藤

最終的には、塾じゃなくて個人のがんばりだよねという話になりました(笑)。

松本

そりゃそうだ(笑)。

受験直前にふっきれる

松本

メンタル的なものは、どうにもしようがないところがあって、とても難しいですね。でも斎藤さん、中学入試の時もそうだったんですけど、最後はふっきっちゃうんですよ。中学入試の時も、受験直前は受験する人とは思えないくらい気楽そうでしたからね。

斎藤

メンタル面は課題です。

松本

近づくと不安になって緊張するタイプじゃないかな。毎週やっていたテストの結果も、12月くらいはかなり順位が下がっていました。体調を崩してまつがくも休みがちになって、その頃がいちばん危なかったと思います。

斎藤

その時期は、夜もあんまり眠れなかったです。

松本

でも、ふっきれた。1月の終わりには戻ったので、だいじょうぶだなと。斎藤さんはきっと、そういうタイプなんです。合唱も大会前は緊張していたでしょう。

斎藤

緊張しますね。

松本

勉強については、緊張していると1科目だけに集中するので(笑)、見ていて分かりました。数学だけ何時間もやってるな~、と。

斎藤

自分がいちばん苦手だと思っているものをやりがちです(笑)。自分としては、2月の後半くらいからふっきれたと感じました。その前までは、勉強があまり楽しくなくなってしまって、成績もふるわなくて。学校での最後のテストが2月後半にあったんですが、それに向けてはけっこうがんばれました。順位もまあまあよかったことで、ふっきれました。

松本

受験当日はどうでしたか?

斎藤

周りの席は附属中の生徒しかいなかったので、ふだんのテストのような感じで臨めました。

松本

これも附属中ならではですね。受験票は学校ごとに出すので、受験者が多い附属中は下手すると試験会場の教室全員が附属中ということもあり得ます。ふっきれたと言えば、英語は本当に力がついたよね。

斎藤

最終的には英語が得意科目になりました。

松本

斎藤さんも含めて、附属中の生徒の英語は、テストの採点が楽でよかったですよ(笑)。ほとんど100点でしたから。

斎藤

最初はいちばん苦手だったんです。長い問題文を読むのに時間がかかって、解答をじっくり考える時間がとれない状態でした。きっかけは、中2の時でした。その頃から英語のテストがすごく難しくなって、このままではまずいと思って、がんばりはじめました。中2が終わった春休みに、高校入試の単元別長文がたくさん載っている旺文社の問題集を買いました。それを毎日やっているうちに伸びました。

松本

それで中3の5月のテストで結果が出たんですね。慣れというか、問題を読んで解くスピードの問題だったんだね。その問題集は誰かにすすめられたの?

斎藤

合唱部の先輩にすすめられました。

松本

中学と高校で誰から影響を受けるかというと、いちばん身近な先輩なんですよね。「自分もこうなりたい」と思える先輩の存在が、引っ張っていってくれるんです。

4. やる気スイッチのカギは本人の「納得」

三分の一は附属中出身者

松本

高校受験が終わって、まつがくでは高校の予習にまた戻ってきました。高校に入ってみて、どうですか?

斎藤

楽しいです。自主性を重んじるところは、附属中と似ています。

松本

280人中約100人が附属中から入りますから。附属中で仲が良かったお友だちもいるんですか?

斎藤

はい、全員長野高校に合格しました。

松本

班活は何をやっているんですか。

斎藤

ESS(English speaking society)という、英語の班活です。

松本

長野高校のESSの生徒は、難関大学に進学していますよね。

斎藤

そう聞いています。

勉強ができる人になる条件

松本

斎藤さんは天才型ですが、努力もできる人です。理想的な生徒さんですよね。でも、もともとの能力以外に重要なポイントがあるんですよ。

斎藤

そうなんですか。

松本

昔、私が高校の時に先生に言われたことなんですけど、「努力する能力があるかどうか」です。何時間でも集中してやれるのは“才能”だと。それがいちばん大事だと言われました。勉強はほぼ量ですから。

斎藤

たしかに。

松本

よくある例として、小学生の時はまつがくの1コマ80分の間に4、5回トイレに行く。集中力がもたないんですね。それが中学で3回、高校でゼロになって、集中力がついて成長したことが分かる。そういうことです。頭がよかろうが何だろうが、そこができるかどうかで、高校や大学で違ってきます。

斎藤

集中力はどうやって身につくんでしょうか。

松本

自分が「なぜ今これをやらないといけないのか」がちゃんと分かっているかどうかです。やらされている状態だと、やりきれないし、力もつかない。そこは本人が心底納得していないと無理です。

斎藤

たしかに!

松本

斎藤さん自身は、今これが自分に必要なことだというのは念頭にあったでしょう?

斎藤

はい、その通りです。

松本

本人が心の奥底で何を考えているかだと思うんですよね。勉強でなくてもよくて、その子が好きなものは絶対にあります。それが何なのかは、言語化が難しい。中学生でもそうです。そこを引き出してあげて、「こうじゃないかな」とやりとりを重ねることで、本人が気づいていく。もちろん、他にも周りの評価とかいろいろありますが。

今もここに通っている生徒で、中学の時に数学が5点だった人がいます。いろいろ話をするうちに、どうしても庭の設計がしたいという願いが出てきました。そのためには設計士になる必要がある。数学5点からどうやって大学に行くか考えて、高校は職業科に行って推薦を狙おうと。それで、須坂創成高校の農学科に進学しました。ただし、大学の推薦はトップでないと取れない。今、学年2位まで来ました。大学も「千葉大に行きたい」とはっきり目標ができて、見違えるように変わりましたよ。本人に聞いたら、「中学の時の自分を殴りたい」と言っていました。彼はもう、なぜ自分が勉強をしなければならないかが明快なので、放っておいても平気なほどです。

斎藤

すごい変化ですね。

松本

たいがい高校で変わりますよ。附属中は受験して入るから、同じようなレベルの子が集まるじゃないですか。でも普通の公立中はいろんなレベルの生徒がいるから、成績の良し悪しで序列ができて固定化されやすい。成績がよくない子は、しんどいですよね。高校は同じレベルの生徒が集まりますから、同じ土俵で見てもらえます。「やればできる」が実感しやすい環境になるんですね。その瞬間、変わりますよ。斎藤さんも、高校でいろんな発想や考え方を持っている人たちにたくさん会うと思います。実際、ESSの先輩はすごく英語ができるし、知識も持っているでしょう。

斎藤

そうですね。高3の先輩は、とても大人に見えます。

松本

刺激を受けて、新しい世界が見えてくるでしょう。そういえば、希望する大学も少し見えてきましたね。

斎藤

今は、上智大学の総合グローバル学部を考えています。自分の興味のある方向にマッチしていて、アフリカやアジアの地域研究ができます。

松本

上智大学はキリスト教系の大学なので、留学に強いメリットもあります。今年はオープンキャンパスが復活する大学が多いようなので、上智に限らずぜひ大学巡りをして、イメージをふくらませてみてください。

 

(取材・文/くりもときょうこ)